全日本学生フォーミュラへの道

全日本学生フォーミュラへの道 貴島名誉教授へのインタビューThe Road to Formula

「生産台数世界一の二人乗り小型オープンスポーツカー」として、
いまなおギネス記録を更新し続ける、世界の名車・マツダ「ロードスター」。
この車の開発主査として長きに渡りプロジェクトを牽引し、2010年度から山口東京理科大学の教授に着任されたのが貴島雄孝氏です。(2021年より名誉教授)
機械工学科では、貴島教授による「ものづくり」に係る講義を本格的に開講しています。

Kijima Laboratory Topics

スペシャルインタビュースポーツカー開発のトップランナーに学ぶ。

貴島 孝雄 名誉教授

元ロードスター開発担当主査

開発の仕事とは、“感性”という捉えどころのない価値をモノに転写する仕事。現場で培った経験を活かして、本物の技術者を育てたい。

世界が認める駿馬「ロードスター」。
それは“人馬一体”という“感性”にこだわった車。

スポーツカーと言えば速さが話題や関心を集めがちですが、ロードスターという車はそうではありません。初代モデルから一貫してマツダが追求し続けるロードスターの真髄とは、「思い通りに走る」、「乗って楽しい」と感じることができる車なのです。スペックではなく、“感性”で商品の価値が定義されている稀有な車なのです。そしてその感性的な価値を表したのが、ロードスターが1989年のデビュー以来、貫き続けている“人馬一体”というコンセプト。私は開発の仕事とは、“感性”という捉えどころのない価値をモノに転写する仕事だと考えているのですが、この感覚的な目標をすべて理論化した車がロードスターであり、その鍵を握るのが「軽量化」です。理論自体は車づくりの正攻法とも言えますが、この動的性能を高める基本をつくりこむことが、実はなかなか難しい。しかし、ロードスターの開発では、50対50前後重量配分、ヨー慣性モーメントと呼ばれる回転重量を小さくすることに特にこだわり、「軽量化」というごく基本的な自然の摂理に従った車づくりを徹底的に目指しました。この軽さこそがライトウェイトスポーツカーの性能であり、“人馬一体感”を実現する決めてでもあったのです。そして、この技術を極めたことが、ロードスターをロードスターたらしめているのです。

「感性工学」などスポーツカー開発の現場で培った経験を次の世代へ。

大学では、「自動車工学」と「感性工学」、そして「モノ創りの基礎(からくり技術)」を教える予定です。「感性工学」という講義では、スポーツカー開発に長年携わってきた経験から、感性という価値の大切さについて、例えば「楽しい」と感じるのはどういうことか、といった内容について追求していこうと考えています。学生には、まず「理論」を知り、それを実現する「技術」、そしてそれらの性能を味わう「体験」を活かして、社会に出ても通用する、本物の技術者を育てたいです。

産学連携の教育、自動車部などの課外活動にも積極的に関われれば。

私自身が長年企業人として歩んできたこともあるので、やはり産学の連携が取れた教育が理想だと考えます。その意味では、すでに山口東京理科大学は、数多くの企業と共同研究を行っており、産学連携にも積極的。理想の教育環境と言えます。私も将来的には、マツダ(株)と連携の取れた研究ができればと望んでいる次第です。また、講義以外にもこれまでの経験を活かして自動車部などの課外活動にも学生とともに積極的に関わっていければと思います。

プロフィール

貴島 孝雄きじま たかお

職名
名誉教授
専門分野
自動車工学
感性工学
略歴
マツダ株式会社 設計部
マツダ株式会社 プログラム開発本部主査
広島大学大学院社会科学研究科 非常勤講師
福山大学工学部 集中講義 講師
鳥取大学工学部 集中講義 講師
山口東京理科大学 非常勤講師

主な研究課題

車両の操縦性・安定性研究

近年自動車を取り巻く環境はCo2削減、経済性の追求、高度な予防安全追求など、従来の走行基本性能の進化発展方向から、技術分野が大きな転換期を迎えて いる。また、そのことは究極の軽量化車両、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車など従来のレイアウト、パッケージングからの多様化をも生んでいる。こ こで重要な事は運動物体としての自動車が備えるべき、走行基本性能を多様化に同期し革新される事である。走行基本性能の中でも安全走行の要である操縦性・ 安定性は如何にあるべきか、高齢化したドライバーの運転スキル低下や不慣れな高速走行が拡大する条件をも加味し、安全走行を保障する車両のあり方を研究する。

ものづくりと感性研究

これからの工業製品は定量化可能な数値で表せる性能に加え、使う事への愛着や癒しと言った感性価値の具現化が重要になってくる。工業製品にどのようにして感性を作り込むか、人の感性の根源を明らかにし、狙いの感性を具現化するものづくりについて研究する。

技術者の就業力

自動車技術会が主催する全日本 学生フォーミュラ大会への参画を通して、学生たちが実際にものに接し、ものを創っていくことによって、技術の理解を深め、実践的な能力を養い、より高いレ ベルに意欲的に取り組んでいく。ものづくりの本質やそのプロセスを学ぶとともにチーム活動やものづくりの厳しさ、面白さ、喜びを実感できる、そんな環境づ くりを通じて、就業力の本質を分析し、創造性に満ちた真の技術者育成を目指します。

主な著書・論文

  • 感性重視の車開発:自動車技術会 論文Vol.61,No.6,2007 P50-P56
  • マツダRX-7 ロータリーエンジンスポーツカーの開発物語
    共著 P93-P96 P147-P166 三樹書房2004
  • マツダ/ユーノスロードスター 日本製ライトウエイトスポーツカーの開発物語
    共著 P97-P118 三樹書房2003
  • Vehicle Development through"KANSEI"Enjineering SAE Paper,2003-01-0125
  • サスペンションのトー角と操縦性・安定性:自動車技術会 論文Vol.41,No.3,1987 P348-P354

主な国際・国内活動

  • 自動車技術会 フェロー会員