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世界最高の冷却性能を達成

投稿日:2025/06/03 研究・プレスリリース

世界最高の冷却性能を達成

【本研究成果のポイント】
成長型中小企業等研究開発支援事業 (Go-Tech 事業)で開発した「人の呼吸現象を応用した自発的な液供給機能を有する二相液浸冷却技術」により次世代型電気自動車のインバータや高度情報化社会を担うデータセンター・サーバの熱問題を解消する世界一の放熱性能を達成しました。

【概要】
本学工学部機械工学科の結城 和久 教授、結城 光平助教、および株式会社ロータス・サーマル・ソリューションの井手 拓哉 代表取締役、村上 政明 研究員、大串 哲朗 研究員らの共同研究チームは、成長型中小企業等研究開発支援事業により、近代社会の大きな課題であるカーボンニュートラル、すなわちグリーントランスフォーメーションに大きく貢献する二相液浸冷却技術を開発しました。
この技術では、人の呼吸現象に見立てた特殊な流動現象「ブリージング現象」を利用し、世界最高の冷却性能を達成しました。従来の実装可能な二相液浸技術の最大性能が300W/cm2程度であるのに対し、ブリージング現象を用いた冷却実証試験の初期(A-STEP事業(JST))において534W/cm2を達成、その後、成長型中小企業等研究開発支援事業 (Go-Tech 事業)の支援を受け、未踏の735W/cm2を達成しました。この成果により、二相液浸技術の実装設計において重要な高い安全率を確保し、ランニングコストと脱炭素化に優れる冷却システムを構築、社会実装を劇的に加速させることができます。

本研究成果はELSEVIER より出版されている「Applied Thermal Engineering」に2025年5月9日に掲載されました。
Kazuhisa Yuki, Takuya Ide, Kohei Yuki, Tetsuro Ogushi, Masaaki Murakami Critical heat flux enhancement by breathing phenomenon induced by lotus/groove heat transfer surface
Applied Thermal Engineering, 274 (2025) 126776

【背景】
現在、世界は深刻なエネルギー危機と環境問題に直面しています。世界のエネルギー需要は2050年に2022年比で30%増になると予想されていましたが、急成長を見せる高度情報化社会により電力需要が予想を超えて遥かに伸びることは間違いありません。今後、豊かなエネルギー社会を構築するためには、安価で安定した電気を供給できるベース電源を早急に確保することが重要ですが、その一方で省エネルギー技術の普及が強く期待されています。省エネルギー技術のなかで最も注目されている技術がパワーエレクトロニクスであり、特に近年、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体が低電力損失の観点から注目されています。特にSiCに関しては、温室効果ガスの排出抑制やカーボンニュートラルへの意識向上も相俟って、次世代の電気自動車や燃料電池車の車載用インバータとして導入が期待されています。しかしながらチップの小型化や大電流化に伴い、その発熱密度は500W/cm2を超えると想定されており、この発熱を従来の水冷技術(ポンプによる水の強制循環液冷)で対応しようとすると、冷却のための電力消費が既存機器の10倍以上に達してしまいます。更に近年、AIを活用する高度情報化社会の急激な進展により、データセンターの消費電力も飛躍的に増大し、省エネ化が急務の課題となっています。特にAIサーバにおける発熱密度は将来100W/cm2を超える勢いです。これらはカーボンニュートラルを目指す近代社会において大きな矛盾であり、このような背景のもと結城教授らは冷却用ポンプを利用しない浸冷却技術に注目し、新しい冷却手法の開発に取り組んできました。

【研究成果の内容】
このような背景に対し、結城教授らは液体の蒸発潜熱(気化熱)を応用した二相液浸冷却技術に着手し、図1のようなグルーブ(溝)が施工された冷却面上に一方向性の気孔構造を有するロータス銅を張り付けることによって発現する「呼吸現象(ブリージング現象)」を用いた新しい冷却技術を提案しました(特許(3))。この冷却技術の特徴として、① 冷却液の沸騰・蒸発によって発生する蒸気の排出経路と液の供給経路を分離することで冷却限界を飛躍的に高めることが可能、② 蒸気の排出に伴う自発的な液の吸い込み現象(図2参照)を利用、③ 高い熱伝導性を有するロータス銅の内部での冷却効果も活用、などが挙げられ、世界に類を見ない技術となります。平面を用いた二相液浸冷却の限界値が110 W/cm2(冷却液:水)であるのに対し、本冷却技術では500W/cm2を超えるまでに向上させることに2021年に成功していました(JST, A-STEP事業)。その後、成長型中小企業等研究開発支援事業 (Go-Tech 事業)の支援を受け、新たにコンピュータを用いた数値シミュレーションを実施し、冷却液の供給経路の解明、ならびに冷却面構造の最適化について検討しました。その知見を実証試験へ反映させることでワールドレコードとなる735W/cm2の冷却性能を樹立しました。これにより、従来技術では不可能であった7㎜角の次世代SiC半導体素子に360Wの負荷を限界として付与できるため、車載用インバータの高出力化に大きく貢献できます。

図1 グルーブ施工面に接合されたロータス銅(左)とロータス銅の表面写真
CC BY 4.0:https://doi.org/10.1016/j.applthermaleng.2025.126776)

図2 呼吸モード(左:グルーブから蒸気排出しロータス銅から液供給、右はその逆)
CC BY 4.0:https://doi.org/10.1016/j.applthermaleng.2025.126776)

【今後の展開】
本技術は電気自動車用インバータの二相液浸冷却用ベイパーチャンバ(間接型二相液浸冷却)として(図3参照)、更には大型サーバ用高性能CPU、GPUの二相液浸冷却技術としての応用が期待されています。上述の実験では、水を作動流体とする冷却試験を実施しているため、データセンター・サーバへの技術応用(直接型二相液浸冷却)を意識し、絶縁性冷媒FC-72を用いた沸騰試験も実施しています。これまで世界最高性能レベルとなる100W/cm2を超える高い冷却限界を実証しています。これらの知見を活かし、既に二相液浸冷却システム「爽空 sola」(大成建設(株) /篠原電機(株) /(株)RSI)が開発されています(2)。爽空solaでは、結城教授らの冷却技術の搭載によりCPU、GPUの温度を20℃近く低下させることに成功しました。加えて、pPUE=(サーバー電力+冷却電力)/サーバー電力=1.04を実証しており、既存の空冷サーバよりサーバ室面積および冷却に使用するエネルギーをそれぞれ90%削減できることも公知されています(2)。
二相液浸冷却システム「爽空 sola」の海外での商用化も開始されていますが、日本オリジナルの冷却技術としてグローバル展開を更に図り、イノベーションを創出するための国際競争力の構築が急務です。そこで、ステイクホルダーとの共創の場として「一般社団法人日本液浸コンソーシアム」を設立しました。液浸のPOC支援や冷却性能の評価方法の標準化に向けた標準評価POC機(図4参照)を開発も行いました。今後、本研究の成果のみならず当該冷却技術分野で国際競争力の強化、国際標準化への取り組み、社会実装を一気に加速させます(4)。

図3 次世代電気自動車用ベーパーチャンバーと二相液浸冷却器・爽空sola

図4 一般社団法人日本液浸コンソーシアムで開発した標準評価POC機

【参考資料】
(1) 井手拓哉,村上政明,結城光平,結城和久, ロータス型ポーラス金属による沸騰促進を利用した沸騰冷却技術, 応用物理, 第92巻, 第1号(2023), pp16-19.
(2) https://youtu.be/tTStzHSyfkg
(3) 特開2021-165628(沸騰冷却構造:結城和久, 木伏理沙子, 海野德幸, 井手拓哉, 大串哲朗, 村上政明)
(4) 一般社団法人日本液浸コンソーシアム HP: immersion-cooling.jp

【お問い合わせ先】
山陽小野田市立山口東京理科大学 工学部 教授 結城 和久
Tel/FAX:0836-88-4536 E-mail:kyuki*rs.socu.ac.jp
株式会社ロータス・サーマル・ソリューション 代表取締役社長 井手 拓哉
Tel/FAX:080-6153-8248 E-mail:ide*lotus-t-s.co.jp
(*は半角@に置き換えてください)
一般社団法人日本液浸コンソーシアム
HP:immersion-cooling.jp

お問合せ:
〒756-0884 山口県山陽小野田市大学通1-1-1

TEL0836-88-3500