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トポロジーが電子相関の強さを決めることを発見―トポロジカル欠陥で生じる近藤効果のエネルギースケールを理論的に解明―

投稿日:2026/06/08 研究・プレスリリース

トポロジーが電子相関の強さを決めることを発見―トポロジカル欠陥で生じる近藤効果のエネルギースケールを理論的に解明―

【本研究成果のポイント】
・トポロジカル欠陥に現れる電子状態が示す近藤効果を理論的に解析
・近藤効果の強さを決める「近藤温度」が、物質のトポロジカル構造によって直接制御されることを発見
・トポロジーが創発的な多体量子現象のエネルギースケールを決定する新しい機構を提案

【概要】
本学の吉井 涼輔准教授(共通教育センター)と大音 璃和氏(工学部)は、1次元トポロジカル物質において、トポロジカル欠陥に形成される局在電子状態が示す近藤効果のエネルギースケールが、物質のトポロジカル構造によって直接決定されることを理論的に明らかにしました。 近藤効果は、局在した電子スピンと周囲の伝導電子との量子力学的な相互作用によって生じる代表的な多体現象です。これまで近藤効果のエネルギースケールは主として電子状態と金属との結合強度によって決まると考えられてきました。 本研究では、1次元トポロジカル系として知られるSu-Schrieffer-Heeger (SSH) 模型を用いて解析を行い、トポロジカル相転移を特徴づける「トポロジカル質量」が近藤温度を直接支配することを発見しました。特に、トポロジカル相転移点に近づくと近藤温度がゼロへ向かって消失することを示し、トポロジーが創発的な多体エネルギースケールを制御することを明らかにしました。 本成果は、トポロジーと電子相関の関係に新たな理解を与えるとともに、トポロジカル量子材料における量子状態制御の新しい設計指針を提供するものです。

本研究成果はアメリカ物理学会より出版されている「Physical Review Research」に2026年6月3日に掲載されました。
Ryosuke Yoshii and Rio Oto, "Topological-mass control of an emergent Kondo scale in an interacting Su-Schrieffer-Heeger chain", Physical Review Research 8, 023243 (2026).

【研究の背景】
近年、トポロジカル物質は量子情報科学や次世代電子デバイスへの応用が期待される新しい物質群として注目を集めています。トポロジカル物質では、物質全体の「形」に対応する数学的性質によって保護された特殊な電子状態が出現します。
1次元トポロジカル系であるSSH模型では、異なるトポロジカル相の境界に「ソリトン状態」と呼ばれる局在電子状態が現れます。このような局在状態は単粒子物理学の観点から広く研究されてきましたが、電子間相互作用による多体効果との関係は十分には理解されていませんでした。
特に、局在電子状態と金属中の伝導電子が相互作用することで生じる近藤効果が、トポロジカル構造によってどのような影響を受けるのかは重要な未解決問題でした。

【研究内容】
研究グループは、電子間相互作用を含むSSH模型(SSH-Hubbard模型)を解析し、トポロジカル欠陥(図1(a))に形成されるソリトン状態(図1(b))を有効的な不純物模型へ写像しました。
その結果、ソリトン状態の空間的広がりを決定するトポロジカル質量が、有効クーロン相互作用と伝導電子との結合強度を同時に支配していることを見いだしました。
さらに解析から、近藤温度はトポロジカル質量に比例し、トポロジカル相転移点では線形にゼロへ向かって消失することが明らかになりました(図1(c))。
この結果は、
「トポロジカル質量が創発的な多体エネルギースケールを決定する」
という新しい物理機構を示しています。
また、グラフェンナノリボンなどで実験的に観測される近藤効果の信号の大きなばらつきについても、トポロジカル構造と局所環境の両方から説明できる理論的枠組みを与えました。

図1.トポロジカル欠陥(図(a))に生じるソリトン状態(図(b))と近藤温度のトポロジカル質量を決めるパラメータに対する依存性(図(c))

【今後の展望】
本研究は、トポロジーが単に電子状態の存在を保証するだけでなく、電子相関によって生じる量子現象の強さそのものを決定できることを示しました。
今後はグラフェンナノリボンや分子鎖などの実験系における検証を進めるとともに、トポロジカル構造を利用して電子相関を自在に制御する新しい量子材料設計への応用が期待されます。
また、本研究で示された「トポロジカル質量による多体スケール制御」という概念は、より高次元のトポロジカル物質や人工量子系へも拡張できる可能性があります。

論文情報

論文タイトル:
Topological-mass control of an emergent Kondo scale in an interacting Su-Schrieffer-Heeger chain

著 者:
Ryosuke Yoshii and Rio Oto

掲載誌:
Physical Review Research

掲載日:
2026年6月3日

お問合せ:
〒756-0884 山口県山陽小野田市大学通1-1-1

TEL0836-88-3500