投稿日:2025/01/30 研究・プレスリリース
本学工学部 竹山 知志 助教と東京科学大学 鷹尾 康一朗 准教授および津島 悟 特任准教授、Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorf研究所の研究グループは、中心金属以外の組成および構造が基本的に同じであるウラン(U)、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)錯体を合成し、アクチノイド元素の錯体化学的振る舞いを系統的に理解することに成功しました。
アクチノイド元素は周期表においてアクチニウム(Ac)からローレンシウム(Lr)までの元素を指し、中でもU、Np、Puは、原子力発電およびその関連分野において重要な元素に位置づけられています。これらの3つの元素は周期表で隣接しており、価数が同じであれば化学的性質が比較的類似していると考えられていますが、U、Np、Puの錯体化学的挙動についても周期性に従った振る舞いを示すのかについては、十分に検証されていませんでした。
本研究では、アクチノイド錯体の形成に有利な五座配位子を有するU、Np、Pu錯体の錯体化学的振る舞いを、分子構造と酸化還元挙動の観点から比較しました。その結果、U、Np、Puのいずれの錯体も分子構造および結晶構造が極めて類似していることが分かりました。一方で、6価と5価の間の酸化還元電位は、アクチノイド元素の種類に大きく依存することが分かりました。さらに、酸化還元電位はU、Pu、Npの順で正側にシフトすることが分かり、周期表の序列に従わないことも明らかにしました。理論計算による検討の結果、これらの酸化還元電位の違いには、相対論効果の一つであるスピン軌道相互作用が大きく寄与していることが示唆されました。本研究は、U、Np、Pu錯体の類似点と相違点を明確に示した研究例であり、アクチノイド錯体の学術的理解の深化に繋がるとともに、原子力発電によって生じる使用済み核燃料などからU、Np、Puを分離する技術の設計・開発を目指すうえでの基礎となる新たな知見を提供します。
本論文記事はアメリカ化学会 (ACS)の学術雑誌「Inorganic Chemistry」の表紙に選ばれ、論文の内容を象徴するカバーアート(図1)とともに、2025年1月26日にオンライン版が掲載されました。
図1.
ウラン(U), ネプツニウム(Np), プルトニウム(Pu)錯体を系統的に研究したことを示す表紙.
タイトル :
A Series of AnVIO22+ Complexes (An = U, Np, Pu) with N3O2-Donating Schiff-Base Ligands: Systematic Trends in the Molecular Structures and Redox Behavior
著者 :
Tomoyuki Takeyama*, Satoru Tsushima, Robert Gericke, Tamara M Duckworth, Peter Kaden, Juliane März, Koichiro Takao*
掲載誌 :
Inorganic Chemistry
掲載日 :
2025年1月26日
論文URL :
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.inorgchem.4c04185
Front Cover URL :
https://pubs.acs.org/toc/inocaj/64/3?ref=breadcrumb