投稿日:2025/03/21 研究・プレスリリース
【本研究成果のポイント】
食品由来成分であるアピゲニンが糖尿病抑制効果を示すことを発見しました。
【概要】
本学薬学部の細井 徹 教授および広島大学大学院医系科学研究科の小澤孝一郎 教授らの共同研究チームは、βチューブリンに結合して糖尿病抑制効果を示す食品成分(アピゲニン)を見出しました。
糖尿病の原因にはさまざまなものがありますが、それらの一つとして、小胞体ストレス、インスリン抵抗性が挙げられます。従って小胞体ストレス・インスリン抵抗性を改善できる化合物を特定することは、糖尿病の治療に有益であると考えられます。
本研究では比較的安全とされる食用植物由来の化合物から、インスリン抵抗性を軽減できる物質の特定を目指しました。その結果、アピゲニンという物質が小胞体ストレス・インスリン抵抗性を改善することが分かりました。アピゲニンは、タマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、日頃から食されてきました。このような、比較的安全な食用植物由来の因子が、糖尿病を予防できる可能性が示されました。
本研究成果はFederation of American Societies for Experimental Biology より出版されている「FASEB J」に2024 年11 月12 日に掲載されました。
Horiuchi K, Matsushima G, Wada M, Thon M, Sobhy MH, Ayoub AT, HaraM, Yoshii M, Arakawa K, Ozawa K, Hosoi T.
A unique compound ameliorating endoplasmic reticulum stress and insulin resistance by binding to β tubulin.
FASEB J. 2024, 38(21):e70150.
doi: 10.1096/fj.202302129RR.
【背景】
糖尿病は、血糖値を下げる働きをもつインスリンというホルモンの分泌・作用不足により血糖値が異常に高くなる慢性代謝性疾患であり、世界的な健康上の懸念となっています。全身の血管や神経にダメージを与え、心臓病や腎臓病、失明のリスクが高まる病気で、日本に579 万人の患者がいるといわれています。インスリンは膵臓のβ細胞という細胞から分泌されます。インスリンが細胞膜上のインスリン受容体に結合すると、PI3K/Akt シグナル伝達経路という、外部からの信号を細胞に伝える身体の日頃から食されている食品由来成分に糖尿病を予防する効果があることを発見しました。
仕組みが活性化され、細胞内へのグルコースの取り込みが促進されることで、血糖値を下げます。しかし糖尿病では、インスリン抵抗性(生活習慣や環境、遺伝的な要因によりインスリンが効きにくい状態)により細胞内へのグルコース取り込みが損なわれた結果、血糖値が上昇します。本研究では「インスリン抵抗性」の一つの原因として知られている小胞体ストレスに着目しました。細胞に小胞体ストレスが降りかかると、小胞体内でのタンパク質の折り畳み(タンパク質がその機能を発揮できる形に構造を変えること)に問題が起き、異常タンパク質が蓄積します。本研究では、食品由来の因子449 種類から小胞体ストレス軽減因子を特定し、「インスリン抵抗性」さらには糖尿病改善効果を示す化合物を明らかにすることを目的としました。
【研究成果の内容】
まず、449 種類の食品由来化合物群の中から、小胞体ストレスによる細胞死抑制効果を示す化合物を検討しました。その結果、アピゲニンという化合物が最も強い効果を示しました。アピゲニンはタマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用など、身体にとってよい影響をもたらすことが知られています。アピゲニンは小胞体ストレス応答の誘導(GRP78, CHOP)を抑制し、小胞体ストレスによる細胞死を抑制しました。さらにアピゲニンは、小胞体ストレスによるインスリン抵抗性改善効果を示しました。そこでその作用機構を明らかにする目的でアピゲニン結合タンパク質を検討しました。アピゲニンとリンカーを介して磁気性ビーズに結合させたビーズを作成し、本ビーズに結合するタンパク質をSDS-PAGE、銀染色、nano LC-MS/MS 解析により同定しました。その結果、アピゲニンはβチューブリンに結合することが明らかになりました。解析でもアピゲニンはβチューブリンに結合することが確かめられました。そこで、アピゲニンによるβチューブリン重合・脱重合への影響を検討しました。その結果、アピゲニンはβチューブリンの重合を促進することで小胞体ストレスによるインスリン抵抗性を改善することが示されました。最後に、マウス個体レベルでのアピゲニンの効果を検討したところ、アピゲニンは糖尿病モデルマウスの血糖値低下作用を示すことが明らかになりました。
【今後の展開】
今回、私たちは食品成分に着目し、食品成分から小胞体ストレスを改善し糖尿病抑制効果を示す有益な化合物の特定を試みました。食品成分は、人々が日常摂取する食品由来の成分であるため、安全性が高いと期待されます。また、特定した化合物であるアピゲニンはβチューブリンと結合することが明らかになりました。私たちの知る限り、βチューブリンを標的とする抗糖尿病薬は知られておらず、今後はこのような知見をもとに、新しいメカニズムを有した糖尿病治療薬の開発が期待されます。
【参考資料】
図 今回の研究で明らかになったアピゲニンの作用機構
(本モデル図はアグリバイオ2025 年3 月号、9 巻、3 号p229-233. より引用)
【お問い合わせ先】
山陽小野田市立山口東京理科大学 薬学部 教授 細井 徹
Tel:0836-39-9149 E-mail:hosoi*rs.socu.ac.jp
広島大学大学院医系科学研究科 教授 小澤 孝一郎
Tel/FAX:082-257-5332 E-mail:ozawak*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に置き換えてください)
【報道発表資料】
報道発表資料(2025.3.21リリース)